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 夏のはじめの金ようび。

 じいちゃんは犬のポチと、るすばんをしています。
じいちゃんは、しゅみのつり道具を修理しています。ひまさえあれば、つり道具をながめているのです。
そばでポチがあくびをしました。

 電話がなりました。

「もしもし、はいそうです。ああ、たろべえかい。ひさしぶりじゃないか。元気にしとったかい? そうかい。
え、あした? そりゃずいぶんきゅうな話だなあ。いや、もちろんいくよ。あしたの朝五時だな。よし、たのしみにしとるよ。そいじゃ」
 電話は、じいちゃんのつりなかまのたろべえさんからでした。あしたの朝五時にまちあわせて「あまごつり」にいくやくそくをしたのです。


 じいちゃんは、さっそくしたくにとりかかりました。
「はやくせんとみんながかえってくるぞ。ええとこれとこれは、もっていかなくてはな。それと、ああ、あれはおしいれのなかだ。どれどれ。」
 あまごつりは山奥の清流でしずかにするもんだから、みんなについてこられてはこまるんです。なにしろ、ここの家族はあそびにいくのがすきだから。それで、じいちゃんはみんながかえってくる前にしたくをすませておいて、あしたの朝、そおっとでかけようとおもったのですが……




「ただいまーー」 まごの次郎が学校からかえってきました。じいちゃんは、「しまった」とおもいましたが、
「おう、次郎かい。おかえり。学校はたのしかったかい?」
と、あいそよくいいました。あんのじょう、次郎はそれにはこたえず、
「じいちゃん! どっかいくんだね。ぼくもつれてって」
といいました。
「ああ、あまごつりにいくんだよ。おまえもいくかい?」
 じいちゃんは、次郎はもう六つだからつりの心得を教えてもよかろうとおもって、こうこたえた。もちろん、次郎はよろこんでついていくことになった。
 じいちゃんは、次郎にいいました。
「いいかい、あまごつりはおおぜいでいくもんじゃない。だから、みんながかえってこないうちにしたくをすませて、あしたの朝、そおっと出発するぞ」
「うん、わかった」


 じいちゃんはすこしほっとして、ふたりでしたくをはじめたのですが……


「ただいまーーー。おやつない?」


 ああ、こんどはまごの一郎が学校からかえってきました。
「じいちゃんと次郎、どこにいくの?」
といいました。じいちゃんと次郎は顔をみあわせた。こまったもんだ。
「あ、ああ、おかえり。ちょっと次郎とつりにいこうとおもってな」
「つりにいくの? じゃあぼくもいくよ。宿題がないんだ」
「そ、そうかい」
 じいちゃんは、またかんがえました。
『一郎はがんこだからなあ。それにつりはけっこううまいし(さすがわしのまごだ)。よし、つれていくか』
「いくんだったら、すぐにしたくをしてくれよ。かあさんたちがかえってこんうちにな」
「まかせといて!」
 それで、次郎と一郎はわくわくしながら、せっせとじぶんのにもつをはこびました。あとちょっとでしたくがおわるというとき、

「ただいま。あら、次郎も一郎も、もうかえっているのね」
といって、かあさんもかえってきてしまいました。かあさんは買いものにいっていたらしい。じいちゃんは、かあさんが「つりにはいかない」といってくれるように神様におねがいしました。しかし、現実はきびしい。
「まあまあまあ、おじいちゃん。つりにいくんですか? あらあらあら、次郎と一郎もいくの? しょうがないわね。じゃあ、かあさんもついていってあげます」
と、かあさんがいったのです。それで、あわてて次郎が、
「いいよ、かあさん。ぼくたちだけでいけるから」
といいました。
「そうだよ。かあさんはつりはあんまりすきじゃないっていってたじゃないか」
と、一郎もいいました。
 じいちゃんはなにもいいません。そのかわり、かあさんがこたえました。
「なにをいってるの。あんたたちだけをいかすわけにはいかないでしょ。おじいちゃんだってたいへんだし」
 なにがたいへんなのかわかりませんが、じいちゃんにとってはめいわくなことです。しかし、かあさんがいくといったらいくのです。それにかあさんもほんとうはいきたいのです。
 そういうわけで、じいちゃんと次郎と一郎とかあさんがしたくをつづけました。にもつはやたらとふえました。


「ただいま」
 やや、ばあちゃんまでさんぽからかえってきてしまいました。いつもよりすこしはやい。じいちゃんはためいきをつくと、じぶんのにもつをもってへやのすみっこにすわりこんでしまいました。
 かあさんがうれしそうにばあちゃんにいいました。
「まあ、おかえりなさい。あしたの朝はやくみんなでつりに……」
と、まだぜんぶいいおわらないうちに
「おやそうかい。それはそれは。ほんじゃわたしもいそいでしたくせんと」
 ばあちゃんは、そういってじぶんのへやへよたよたとはしっていきました。
『まあ、結局、こうなることはわかっておったんじゃ』と、じいちゃんはひとりごとをいいました。みんなががやがやとしたくをしています。


「ただいま。はらへったよ」
 とうとう一家の大黒柱のとうさんもかえってきました。
「おかえんなさい。とうさん、あしたつりにいくんだよ」
「そうだよ。みんなでいくんだって。とうさんもはやくしたくをしなきゃ」
 次郎と一郎がさけぶと、かあさんもまけずに
「あしたの朝ははやいので、きょうは全員九時にねます」
と、せんげんしました。
「ポチもつれていっていい?」
 次郎がじいちゃんにききました。
「あ、ああ、いいとも。ポチひとりるすばんじゃ、かわいそうだものな」
 じいちゃんはなにやらうわのそらでこたえました。
『こんなにおおぜいでいったら、たろべえがおこるだろうなあ。こまったなあ。たろうべえになんていおう』


 つぎの朝四時。まだそとはうすぐらい。とうさんがみんなにききました。
「さあ、でかけるぞ。みんな、わすれものはないか?」
 みんなはいっせいに「なーい」とこたえました。
 次郎を先頭に、みんなはげんかんまで行進し、くつをはいて、にもつをもって、六人と一ぴきは車にのって出発しました。


 じいちゃんとたろべえさんは、うでこき山のふもとの駐車場でまちあわせるやくそくです。
「さあ、ついたぞ」
と、とうさんがいいました。がやがやとみんながおりたあと、さいごにじいちゃんがとてもくらい顔で車をおりました。じいちゃんはたろべえさんになんといってあやまろうかと、ゆうべからずっとかんがえていたのです。ちょうど、となりの車から、やっぱりくらい顔をしたたろべえさんがおりるところでした。くらい顔のふたりが顔をあわせると、同時にいいました。
「おや、たろべえたちの車だったのかい」
「おや、おまえさんたちの車だったのかい」
「すまないんだが」
「すまないんだけど」
 そのとき、たろべえさんの車からまごたちが三人おりてきました。
「よお、わるいわるい。まごたちがどうしてもついていくっていってなあ」
と、頭をかきながら、たろべえさんがあやまりました。
「いやいや、あやまることはない。じつは、うちもおんなじなんだ。なあんだ。そうかそうか、そうだったのか」
「わっはっは。しんぱいすることはなかったのお」
「しかし、こんなおおぜいじゃ、あまごつりはむりだなあ」
「ああ、そうだなあ」
 やっぱり、ふたりはくらい顔のままです。


 そのとき、駐車場のすみっこのくさむらでポチとおいかけっこをしていた次郎が、大きな声でさけびました。「ねえ、みてみて、ポチがきのこをみつけたよ。これ、たべられるのかなあ」
 すると、ばあちゃんがちかよって、こしをまげていいました。
「これはハタケシメジだよ。たべるとおいしいよ。このあたりの林だと、いまごろはキクラゲやウスヒラタケなんかもとれる」
「じぶんたちでとれるの?」
 次郎もにいちゃんの一郎もきのこが大こうぶつなのです。
 すると、とうさんがいいました。
「そうか、次郎たちはきのことりをやったことがなかったね。どうだい、じいちゃんたちはあまごをつりにいって、子どもたちはきのことりをしないか? おもしろいぞお。ばあちゃんがきのこの先生だ」
 それをきいて、かあさんもうなずきました。
「そうね。それなら、あまごときのこの両方をたべられるし、子どもたちには、理科の観察になるわ」
 まったく、かあさんというのは、どうしても勉強にむすびつけたがるんだから。と、子どもたちはおもいましたが、それはいわないで、
「うん、そうしよう。そうしよう」
と、全員がさんせいしました。
 ふたりのじいちゃんたちも、ほっとした顔をしていいました。
「ああ、それがええそれがええ。じゃあ、みんながんばって、きのこをたくさんとってきておくれよ。わしたちも大きいあまごをつってくるぞ」


 こうして、じいちゃんとたろべえさんは、よていどおりあまごつりにいき、のこりのみんなはきのことりにいきました。ポチが大かつやくをしてたくさんのいろんなきのこをみつけ、じいちゃんたちは大きなあまごを十六ぴきもつってきました。
 そして、家にかえると、次郎の家もたろうべえさんの家も、夜ごはんはあまごの塩やきときのこじるをおなかいっぱいたべました。

おしまい。

 

2005年「おおきなポケット」9月号掲載
福音館書店©
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